大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和48年(ラ)21号 判決

抗告人

山川太郎

相手方

山川花子

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、別紙に記載のとおりである。

よつて、判断する。

家事審判法九条一項乙類一号所定の夫婦の同居等に関する処分についての審判は、家庭裁判所がその後見的機能として、夫婦同居の義務等の実体的権利義務の存することを前提として、その同居の時期、場所、態様等について具体的内容を形成する処分である(最高裁判所昭和四〇年六月三〇日決定参照)ところ、記録および当審における抗告人、相手方各審問の結果によれば、抗告人と相手方は昭和三五年二月一三日見合結婚(同年四月一日婚姻届出)をし、以来昭和四六年九月一九日まで夫婦として同居し生活を共にして来たもので、その間に長女正江(昭和四〇年三月五日生)、長男素明(昭和四二年五月八日生)の二児があること、抗告人ら夫婦は、抗告人は小型船の乗務員として勤務し、相手方は主婦として家事に従事し、昭和四五年九月末頃までさしたる風波もなく生活して来たが、その間においても相手方は、抗告人がなした相手方親族に対する異常ともいえる程の数々の悪口や抗告人の酒癖が悪いことなどに不満を抱いていたものであること、ところで抗告人は、昭和四五年九月末頃勤務中に船のタラップから転落し後頭部を打撲したが、その後遺症から精神の安定を欠くようになり、不機嫌となつて故なく相手方や子供らに当たりちらすようになり、特に、昭和四六年三月頃には、電話口に出た相手方の異母姉森川恵子の口のきき方が悪いとして、夜間同女方に殴り込みをかけて同女に傷害を与え、その後も同女方に脅迫状ともいえる手紙を送りつけたり、相手方の親戚にも嫌味のある手紙を出したこと、また、同年九月一九日頃には、些細なことから長女正江を叩き、止めに入つた相手方に対しても、椅子をもつてその背中を殴打するなどの非道い暴行を加えたこと、右のような抗告人の所業は、一概に前記後遺症のせいばかりとはいえず、抗告人の生来の性格の現われともみえること、抗告人は粘着性傾向が強く、自信過剰で打算的であり、相手方は勝気で、自己中心的傾向が強く、そのような性格の相違もあつて、相手方は、次第次第に抗告人に対する愛情を喪失し、離婚を決意して、昭和四六年九月一九日二児を伴つて実家に帰り、同月二二日原裁判所に離婚の調停を申立てたものであること、その後右調停は不調に終つたが、相手方は、以後も離婚の決意をかえず、製材所の雑役として働き、実家の援助を得て二児を養育しながら生活しており、抗告人と再び同居する意思を全く失つていること、むしろ最近では抗告人から何時暴行を受けるかもしれないとして戦戦兢兢としていること、抗告人は、その後療養を重ね、精神状態も次第に安定し、再び勤務しうる状態となつており、二児のためにも相手方の帰宅をまつて円満な家庭を再建したいとねがつているが、相手方らに対して一応謝意を表わしているものの、依然として相手方や相手方の実母森川景代に対する悪口をいいつのるのみで、相手方らとの適切な融和策を具体的に講じようとはしないこと(もちろん相手方の離婚および同居拒絶の意思表示が、相手方の母親の不当な介入により、真意に基づかないでなされているものであると即断することはできない)などの事実が認められる。

思うに、婚姻が既に破綻し、その段階では円満な同居生活の実現が到底期待できないような場合には、家庭裁判所としては前記法条に基づく審判としてその具体的内容を形成する処分をなすに由がないものと解される。そして、右の見地から前記認定の事実をみると、抗告人と相手方との夫婦関係は既に破綻し、この段階では円満な共同生活の実現が到底期待でない情況にあるものというべきであるから、抗告人の本件同居の申立はこれを却下するのが相当であると認められる。

よつて、抗告人の本件申立を却下した原審判は相当であつて、本件抗告は理由がないから、家事審判法七条、非訟事件手続法二五条、民訴法四一四条、三八四条によりこれを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(加藤龍雄 後藤勇 小田原満知子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例